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フリーマガジン『ICHIOSHI』22特別号 筑田浩志様インタビュー

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筑田浩志さん(作詞、作曲、編曲家)

お話をうかがったのは、福岡県で活動する、作詞、作曲、編曲家の筑田浩志さん。2010年、渡り廊下走り隊に楽曲提供をして以来、GALETTeや流星群少女などの九州発アイドルグループをはじめ、数々のアイドルに楽曲を提供している。現在は、大型フェスの常連である九州女子翼のサウンドプロデュースを担当。今秋には、同氏が制作に携わったAnge☆Reveの新曲と空想モーメントL+の新曲がリリースされた。アイドルシーンに数多の伝説を残しつづける、知る人ぞ知るクリエイターに、ご自身の経歴や制作過程、楽曲制作者という視点から見たアイドルについてなど盛りだくさんにお聞きした。(2022年9月30日 収録)

<プロフィール>

筑田浩志(ちくだ・ひろし)さん。2000年、福岡コミュニケーションアート専門学校(現FSM)ヴォーカル科卒。その後、福岡を拠点に音楽制作活動を開始。福岡のプロダクションにて講師として講義をしながら楽曲提供、編曲などを行う。渡り廊下走り隊、CQC's、GALETTe、流星群少女、保坂朱乃、IsTaR、おはガールふわわ、西恵利香、九州女子翼、トキヲイキルなどの作曲・編曲を担当し、リスナーから高い評価と信頼を得ている。ジャンルを問わず幅広く制作中。聞く人を虜にするゴージャス、且つグルーヴ感溢れる音作りが今注目を集めている。

「設計」から「工事」まで担当する音楽クリエイター

-まずは、筑田さんのお仕事について教えてください。

筑田さん現在はフリーで音楽制作をしています。作曲・編曲・サウンドプロデュースについて、ぼくの場合は、作曲と編曲の依頼が同時にきます。だいたいは「こういう風な曲調でください」っていう提案がきて、その提案に沿って作曲、編曲までします。サウンドプロデュースとの違いは、こちら側からの提案があるかないかくらいです。サウンドプロデュースを担当している九州女子翼であれば、「現状の九州女子翼に必要な音楽はこんな感じでどうですか?」と提案をします。

-作曲と編曲にはどのような違いがあるのでしょうか?

筑田作曲っていうのはメロディだけなんです。

-鼻歌でも作曲と呼べるんですか?

筑田そうです。これにまわりの音やコードも含めて作るのが編曲です。カラオケボックスに行って流れてくる音楽はすべて編曲によるものなんです。

-そうなると編曲の作業量はそうとう多いですよね。

筑田そうですね(笑)。作曲っていうのは設計図を書くイメージです。反対に、編曲っていうのは突貫工事で、作業員が作業をするっていうイメージです。あと、編曲は突貫工事だから日当が出るんですよ。どれだけ売れるかにかかわらず収入が決まっています。作詞と作曲は印税なので、いくら入ってくるか分からないんです。

天神のアコギ弾きからGALETTeに至るまで

-とってもイメージしやすかったです、ありがとうございます。つぎに、現在のお仕事にいたるまでの経歴を教えてください。

筑田もともとはシンガーソングライター志望でした。中学時代、福山雅治が好きだったんです。そして、中3のときにボン・ジョヴィのアルバムを聴いて衝撃を受けました。アコギ弾きで、福岡の天神っていう繁華街に行って、自作のCDを売ったりしていたんですよ。25歳になって、これでは食べていけないと思い、音楽制作の裏方を志望するようになりました。いろいろオーディションに楽曲を出すようになり、そのことがきっかけで福岡のタレントスクールで先生をするようになりました。それが楽曲作家としての始まりです。そのスクールの校長先生がSMAPに作詞提供をされていた方で、その方から作詞を習ったり、CM音楽や編曲、作曲やレコーディングエンジニアも経験しました。そこで音楽でちょこっと稼げるようになりましたね。そのあとは楽曲コンペに応募するようになって、30歳のときに、渡り廊下走り隊のコンペが決まりました。それから声をかけられて、福岡のCQC’sの楽曲を作ることになり制作したのが『ゆるふわweekend』です。そしてCQC’sの運営さんとの繋がりで、天神ベストホールの館長もやることになりました。毎週LinQの公演を見ていましたよ。当時は、CQC’sの作家をやりながら天神ベストホールの館長をしていました(笑)。

-すごいですね(笑)。

筑田そのあとに、いま九州女子翼が所属している会社に就職するんです。もともと天神ベストホール時代に顔見知りではあったんですが、運営さんに声をかけられたときは曲の依頼かなって思いました。そしたら社員を募集しているということだったので、「じゃあなりまーす」って、I’S9(アイズナイン)のマネージャーになりました。チェキを撮ったり、車を運転して東京に行ったりもしてました。この年の10月くらいにGALETTe(ガレット)がデビューするんです。GALETTeは3社合同の企画で、ぼくがいた会社も関わっていました。「だれが曲書く?」って話になったとき、ぼくの名前が上がり、書き始めることになったんです。GALETTeをきっかけに楽曲制作の依頼が増えてきて、2015年ごろからはフリーで活動するようになりました。

-そのような経緯があったんですね。楽曲コンペに応募しはじめたとき、アイドルソングのほかにも応募していたのでしょうか?

筑田もともとはアイドルにこだわらず、そのほかのアーティストにもコンペを出していました。そのころ革靴を手縫いするバイトをしていたんです。知り合いが社員だったので、融通が効いたんですよ。だから週1回はコンペを出すみたいな感じでした。その当時AKB48にけっこう出しました。受かったのは2年くらいやって1曲という感じでしたが、このころの1週間に1曲作りあげるスピード感がのちのちにつながっていますね。

作曲、編曲をする前に〝曲の分析〟に時間をかける

-ふだんの楽曲制作の流れを教えてください。

筑田まず、制作依頼がきたら請求書を作ります。これは昔からの教えです。請求書を作って、自分が抱えている量を把握するためです。作曲の場合、リファレンス曲という、どういう曲が欲しいかという指示が来るので、その曲を分析します。たとえば、なにをもってその曲が良いかっていう曲の分析をするんです。向こうとぼくのカッコいいと思うポイントはちがうんですよね。だから向こう側がこの曲のなにをカッコいいと思っているのかを分析するんです。リファレンス曲からどのポイントを引きぬいて落としこむかを探ります。この分析にわりと時間がかかりますね。

-曲を作るまえから、分析に時間を使うんですね。

筑田曲を作るのは30分くらいでできますが、引きぬくポイントがずれていたら、すべてがおしまいなので、ポイントをどう掴むかが重要です。そこに編曲もかぶってくるんですけど、リファレンス曲で使っている曲の構成をカッコいいと思っている場合、たとえば、ドラム、ベース、ギター、上でストリングスとピアノが鳴っているという構成をかっこいいと思っているのなら、そのフォーマットで編曲します。1回ワンコーラスで作ったら先方に共有して、よければフル尺にして、それもOKなら納品という流れです。

-制作依頼者とのやりとりも、それほど頻繁ではないんですね。

筑田そうですね、昔からですね。人によりますが、綿密にやりとりをする方もいます。急ぎの作業だと電話でやりとりをすることもありますね。場合によっては納期がないんですよ。良い曲ができたらちょうだいという感じですので。

-あらかじめ決められたリリース日にあわせて調整するものだと思っていました。

筑田最近はタイトなこともありますが、昔はリリースは後決めでしたね。納期がきびしいとかいう記憶はぜんぜんないですね。

本人も計画外の楽曲ジャンル「筑田サウンド」

-アイドルファンのなかで「筑田サウンド」と親しまれる数々の楽曲ですが、作曲・編曲のアイデアはどのようなときに生まれるのでしょうか?

筑田よく「筑田サウンド」とか「筑田節」と言っていただけるのですが、なにをもってそう言っていただけるのか分からないんですよ。1回自分で研究しようと思ったんです。研究したんですけど結局わかりませんでした(笑)。SAWAさんというアーティストの方に曲を書いたとき、「筑田サウンド」で書いてくださいって言われて、わからないまま書いたのですが、「『筑田サウンド』でよかったです」と喜んでもらえて、ますますわからなくなりました(笑)。

-ご自身でも計画していないというか、外部からいろいろな刺激を受けてきたなかでできあがっている楽曲というわけですね。

筑田そうですね。90年代の1番CDが売れたころ、ランキング番組が乱立していたころのトップチャートのメロディがぜんぶ頭に入っているので、そのあたりのメロディにアイドルファンクっていう感じのリズムがまざっているのかなと思います。

-ちなみに楽曲を制作する場所にルーティーンはありますか?

筑田いつも自宅ですね。これはもうずっとです。パソコンもスピーカーもキーボードもぜんぶ自宅にあります。オーディオインターフェイスというものがマイクを入れるときに必要で、その音量を動かすミキサーがあって、ほかに使っている機材はそれくらいです。ヘッドホンを使うので音量もそれほどデカくないです。映画を見るときより小さい音で楽曲を作っています。パソコンもノートパソコン1台ですので、ぼく、コスパは最強なんですよ(笑)。

-それでしたらご自宅でも音を気にせずに制作できますね。作詞作業もご自宅で行われているのでしょうか?

筑田自分で作詞する場合とそうでない場合があって、自分で作詞する場合はメロディと歌詞がいっしょに降りてくる場合が多いですね。だから自宅ですね。

-最初から作詞をしておいてメロディをつけるというわけではなく、同時にですか。

筑田たとえば、西 恵利香さんの『MUSICを止めないで』という曲があって、作詞はぼくではなかったんですけど、サビ頭の「Don’t stop the music」は作曲の段階でもう降りてきていたので、これで書いてと発注をしました。こういうことはよくありますね。

「1番はお客さんの反応を考えています。」

-これまで何曲もアイドル楽曲を制作されてきたと思うのですが、そのなかで印象に残っているエピソードを教えてください。

筑田流星群少女のレコーディングはほんとうに楽しかったです。歌詞を表現させるために、「ちょっとふざけてみようか」とか「宇宙人っぽい声出して」とか言っていました(笑)。

-とても楽しそうですね(笑)。

筑田流星群少女の『メリリリリリリリクリスマス!』『だって流星群だもん』『あの私誕生日なんですけど』ここら辺のレコーディングの話です。1番ふざけていましたね(笑)。まえに録ったメンバーのレコーディングをつぎのメンバーに聞かせて、もっとふざけさせていました。『メリリリリリリリクリスマス!』の最後のところを聴いてもらえたらわかるんですけど「クリントン!クリントン!」って叫んでいるパートがあって、そこも面白がってやっていました。

-ご自身の楽曲を代表するディスコファンク・ミュージックというジャンルに、なにかこだわりはありますか?

筑田個人的には、こだわりはないです(笑)。まわりが求めてくれていることが制作する理由ですね。ぼくがカッコいいと思うメロディとファンクのリズムの相性が良かったのかなと思います。

-そうなんですね(笑)。

筑田自由に作ってくださいという依頼が1番難しいんですよね。自由に作ってくださいと言われたらディスコを持ってくるか分からないですね。もうちょっと実験的なことをやってみたい気持ちもあります。

-ありがとうございます。それでは、アイドル楽曲の制作で、つねに大切にしていることを教えてください。

筑田1番はお客さんの反応を考えています。お客さんが楽しんでくれればそれでいいかなと思っています。GALETTeのラストライブが新宿ReNYであったんですけど、お客さんが楽しんでくれていたので、それを観られたのが1番うれしかったです。あと、ライブパフォーマンスを前提で書いています。ライブで何回聞いても飽きないかとか、ライブでどう盛り上がるかということを想像しながら楽曲を作っています。

九州女子翼、アルバム単位としての作品作り

-お客さんが楽しんでいる姿を観られるのはうれしいですよね。サウンドプロデューサーを担当していらっしゃる九州女子翼について、まずはサウンドプロデューサーになられた経緯を教えてください。

筑田もともとメンバーオーディションがあって、オーディションの選考員になってほしいと言われました。行ってみると自分の席にサウンドプロデューサーって書かれていたので、その流れでなりました。気づいたらなっていました(笑)。

-そんなスムーズに(笑)。いまでは数々の楽曲、アルバムは3つ出されていますけれども、九州女子翼のサウンドプロデュースでとくに意識されていることはありますか?

筑田九州女子翼の場合は、ぜんぶぼくの曲という前提で作るので、アルバム単位でトータルのバランスを考えます。曲調、ジャンル、テンポのバランスです。曲の配置をどうするかというときに、1曲目をなににするか考えたり、この曲のまえが1曲空いていると思えばそのための曲を制作します。

-そんな筑田さんから見た九州女子翼の魅力を教えてください。

筑田ライブの熱量ですね。ライブを見ていただければ、魅力がつたわると思います!でも、ほんとうにいま、ライブアイドルの客層として、若い人がだんだん減ってきているので、そこをやっぱり取り戻していきたいというのが業界全体としてありますね。

アイドルは、お客さんを楽しませる同志

-今秋発売の新曲、Ange☆Reveの『BLOOMING RUNWAY(2022/10/26発売)』、空想モーメントL+の『エルプライダーGO!!GO!!(2022/11/01発売)』について、それぞれのエピソードや注目のポイントを教えてください。

筑田今回の『BLOOMING RUNWAY』と『エルプライダーGO!!GO!!』はジャンル的に両極端の依頼がきたなという感じでした。昔でいうGALETTeから流星群少女っていう振り幅がちょうきたなと。作曲・編曲を通して自分の喜怒哀楽を落としこむので、この振り幅はバランスがとれてちょうどよかったです。『エルプライダーGO!!GO!!』は、とにかくわちゃわちゃできる楽曲を作ってほしいと依頼を受けたので、終始わちゃわちゃしていると思います(笑)。『BLOOMING RUNWAY』は、メンバーさんからGALETTeの『じゃじゃ馬と呼ばないで』のような曲が欲しいと言っていただき、グループ的にもアーティストテイストな楽曲で行きたいという意向があり、制作したものです。ポイントとしては、イントロのリフをブラスでいかずにエレピ(エレクトリックピアノ)でいったことです。ブラスにすると派手にはなるんですけど、年齢層にあった落ち着いたアーティスト志向にあってこないんです。あと、「RUNWAY」というのは既に決まっていたツアータイトル名と絡めました。前進するようなイメージで作っています。

-ありがとうございます。来年で作家デビュー15周年を迎えられますが、今後のライフプランはどのように考えていらっしゃいますか?

筑田10周年のときに1度やったんですけど、まずは<筑田祭り>をもう1回やりたいです(笑)。

-ぜひ行きたいです!

筑田ぜひ来てほしかった。

-当時まだアイドルを見ていなかったのが悔やまれます。

筑田でも、そのとき出ていたアイドルさんは、もうほぼほぼいなくて、もういまは九州女子翼とくるーずくらいいで。くるーずももう来年解散になるので。だからね、みんなが現役のころにもう1回<筑田祭り>をやりたいですね、盛大に。あとは、もっといろいろな方に歌ってもえるように頑張ります(笑)。

-最後に、筑田さんにとってアイドルとはどのような存在でしょうか?

筑田アイドルに歌ってもらわないと、ぼくの曲は発表できないので、協同制作者だと思っています。アイドルの人とおなじ方向を向いているというか、お客さんを楽しませるためにアイドルの人も活動していると思うし、ぼくも曲を書いていて、終着点がおなじなので、いっしょにお客さんを楽しませるための舞台というかステージを作っている同志だと思います。

-取材は以上になります。本日はありがとうございました。

筑田ありがとうございました。(終)

◾information

・Ange☆Reve『BLOOMING RUNWAY』(筑田さん作曲、編曲)発売中!

・空想モーメントL+『エルプライダーGO!!GO!!』(筑田さん作曲、編曲)発売中!

・九州女子翼 4th Album『UNIVERSE』2023年7月4日発売!

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